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世界の切り絵の魅力|文化が生んだ美しい紙の芸術を解説

形あそび

世界の切り絵

切り絵*きりえは、世界各地の風土や信仰と結びつきながら、独自の発展を遂げてきた。

切り絵の起源のひとつはインドにあるとされ、シルクロードを経て中国へ伝わり、日本やヨーロッパなど世界各地へ広がったと考えられている。

 

インド

インドでは、古くから神聖な祈りの儀式に用いられ、型紙の上に砂をまぶして模様を浮かび上がらせる技法などが発達した。その緻密*ちみつな技術が各地へ伝わり、地域ごとに多様な発展を遂げていった。

 

サーンジー
サーンジー*Sanjhiとは、もともと寺院においてヒンドゥー教の神 クリシュナ*कृष्णへの供え物として用いられた、床に描く砂絵の型紙から発展したものである。
 
花や幾何学模様*きかがくもよう精緻*せいちに表現するのが特徴で、現在では独立したアートとして確立されている。
 
インドで生まれたこの技術は長い年月をかけて広がり、各地の文化と結びつきながら多様に変化し、それぞれに異なる特色を生み出している。

 

中国

西暦105年ごろ、後漢*ごかんの宦官蔡倫*さいりん
/ Cài Lún ツァイ・ルン
が製紙法を改良し、実用的な紙が普及したことで、中国の切り絵文化は大きく発展した。

 

剪紙
剪紙*せんし
/ jiǎnzhǐ ジエン・ジー
とは、世界最古の切り絵のひとつとされる民間工芸の総称で、2009年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されている。
 
もともとは北方の農村地帯で、女性たちが家事の合間に身近な紙を使って作り始めたもので、主に赤い紙が用いられ、縁起の良い動物や植物、神話などがモチーフとなる。
 

 

この「剪紙」は、飾る場所や目的によって以下のように呼び分けられる。

窓花
窓花*まどはな
/ chuāng huā チュアンファ
とは、窓に貼って飾る切り絵のこと。
 
中国の旧正月「春節*しゅんせつ
/ Chūnjié チュンジエ
」を迎える際、家を清め、新しい年の幸運を祈るために窓に貼る習慣がある。光を透かすことで模様が美しく浮かび上がるのが特徴である。
喜花
喜花*きか
/ Xǐ huā シィ・ホァ
とは、結婚式や誕生日、出産といった冠婚葬祭やお祝いの儀式に用いられる切り絵のこと。
 
特に、結婚式で使われる「喜」の字を2つ並べた「双喜*そうき
/ shuāngxǐ シュアンシー
」の文様が有名で、贈答品や家財道具、お菓子などに添えて、喜びと祝福の気持ちを表現するために使われる。

 

剪画
剪画*せんが
/ jiǎnhuà ジェンホァ
とは、中国語で「ハサミで描いた絵」を意味する剪紙*せんしの一種のこと。
 
現代においては、単なる伝統工芸にとどまらず、より美術的価値の高い「鑑賞用アート」を象徴する呼称として定着している。

 

ドイツ

16世紀ごろから、宗教的な寄進や手紙の装飾として「シェーレンシュニッテ*Scherenschnitte」が発展した。

 

シルエット切り絵
シルエット切り絵*Scherenschnitt
シェーレンシュニット
とは、、「ハサミで切る」という意味を持つドイツ語に由来する技法で、ヨーロッパに広く伝わっている。18世紀から19世紀に発展し、人物の横顔や風景を黒い紙で切り抜くシルエット表現が特徴である。
 
簡潔な造形でありながら人物の個性や物語性を巧みに表現できる点に魅力があり、もともとは肖像画の代替として市民の間に広く普及した。現在では、洗練されたクラシカルな表現として評価されている。

 

ポーランド

ポーランドでは、農村の暮らしの中から生まれた装飾文化として、独自の切り絵が発展した。

 

ヴィチナンキ
ヴィチナンキ*Wycinankiとは、18世紀、ウォヴィチ地方の農家の女性たちが、羊の毛を刈るハサミで作り始めたことが起源とされている。
 
黒い紙をベースにカラフルな色紙を何枚も重ねるのが特徴で、ニワトリや花をモチーフにした横長のデザイン「コドラ*Kodra」などは、まるで刺繍のような圧倒的な華やかさを持つ。

 

スイス

スイスでは17世紀以降、宗教的な祈りの品や上流階級のシルエットとして切り絵が親しまれた。

19世紀には、近代切り絵の父とされるヨハン・ヤコブ・ハウスヴィルト*Johann Jakob Hauswirthが、アルプスの山小屋や放牧の様子を左右対称に切り抜く伝統的な様式を確立した。

 

シェレンシュニット
シェレンシュニット*Scherenschnittとは、19世紀初頭にスイスのヴォー州を中心に発展した切り絵のこと。
 
黒い紙を二つ折りにして切る「左右対称」のデザインが基本で、アルプスの風景や牧歌的な生活が緻密*ちみつに表現される。

 

メキシコ

メキシコでは、アステカ文明時代から続く、樹皮から作られた「アマテ紙」を切り抜く儀式の文化が起源とされる。

 

パペルピカド
パペルピカド*Papel Picadoとは、スペイン語で「穴を開けた紙」を意味し、祭礼に欠かせない装飾として用いられる切り絵のこと。薄いカラーペーパーを重ね、ノミや金槌*かなづちを使って一度に何十枚も切り出す。
 
11月1日と2日に行われる「死者の日*Día de los Muertos
ディア・デ・ロス・ムエルトス
」は、日本のお盆に相当する先祖供養の行事で、故人の魂が戻ってくるとされている。この行事の飾りとして、パペルピカドは街中に飾られ、風にたなびく様子がメキシコらしい賑やかでポップな世界観を演出する。
 

 

フランス

18世紀半ば、倹約政策で知られる財務大臣 エティエンヌ・ド・シルエット*Étienne de Silhouetteの名に由来する、黒い紙の影絵*シルエットが流行した。

 

デクパージュ
デクパージュ*Découpageとは、紙を切り抜いて構成する技法で、特に20世紀には芸術の分野で大きく発展した。
 
その代表的な存在が、フランスの画家 アンリ・マティス*Henri Matisseである。彼は晩年、色紙を自由に切り抜いて貼り合わせる「切り紙絵」の手法を確立し、大胆な色彩と有機的なフォルムによって新たな表現を生み出した。これにより、切り絵は現代アートへと発展していく流れを象徴する存在となった。

 

日本

日本の切り絵の歴史は古く、7世紀ごろの飛鳥時代に、仏教伝来とともに中国から伝わったとされる。

古くから神域を飾る「御幣*ごへい」などの神事に用いられたほか、江戸時代には着物の柄を染めるための「伊勢型紙*いせかたがみ」などの職人技として高度な発展を遂げた。

現代では、カッターを用いた繊細な表現が主流となり、白と黒のコントラストで表現するスタイルが一般的であり、近年では多色切り絵や、驚くほど細密な線による表現など、現代アートとしての進化も続いている。

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