秋を題材にした作品
秋は、静けさやもの思いにふける雰囲気から、多くの文学や美術作品に描かれてきた。作品の中に、深まりゆく季節の情緒が表れている。
文学
実りの気配が深まり、空気が澄んでいく秋は、数多くの文学作品に登場する季節。秋の情景は、物語に静かな余韻を添え、登場人物の内省や変化をしみじみと描いてきた。
秋 / 芥川龍之介
伊豆の踊子 / 川端康成
夜のピクニック / 恩田陸
など
枕草子
枕草子*まくらのそうしとは、平安時代中期に日本の第 66代天皇 一条天皇*いちじょうてんのうの皇后*号は中宮、のち皇后宮 藤原定子*
/ ていしに女房*にょうぼう
/ 貴族に仕える女官として仕えた、清少納言*せいしょうなごんが著した随筆である。
「枕草子」に描かれた秋は、夕暮れの美しさに象徴されるように、物事のはかなさを深く感じ取る季節として語られている。その繊細なまなざしは、時代を越えて心に静かな余韻を残す。
秋は夕ぐれ
夕日のさして
山のはいと近うなりたるに
枕草子*まくらのそうし烏(からす)の
寝どころへ行くとて
三つ 四つ 二つ 三つなど
飛びいそぐさへ
あはれなり
まいて
雁*かりなどの列*つらねたるが
いと小さく見ゆるは
いとをかし
日入りはてて風の音*おと
虫の音*ねなど
はたいふべきにあらず
秋は夕暮れ(が良い)
夕日が映えて
山の端にぐっと近づいたころに
カラスが
巣に帰ろうとして
三羽 四羽 二羽 三羽と
飛び急いでいる様子さえも
心が惹かれる
言うまでもなく
雁などが連なって飛んでいる様子が
とても小さく見えるのは
たいそう趣がある
日が暮れてから聞こえてくる
風の音や、虫の音なども
また言うまでもない
万葉集
万葉集*まんようしゅうとは、奈良時代末期に成立したとされる、日本に現存する最古の和歌集のこと。
「万葉集」には、実りの季節を迎える秋に、澄んだ空や色づく草木、物思いにふける心を詠んだ歌が数多く残されている。
色づく野山や月の光に心を重ね、喜びや恋、別れの余韻までも映し出した万葉の歌は、千年の時を超えて、いにしえの夏の息吹を今に伝えている。
やまおうえ おくら
奈良時代初期の貴族・歌人
秋の野に
咲きたる花を
指折りかき数ふれば
七草の花
秋の野に
咲いている花々を
指折り数えてみれば
七種類の花
ふじわら の としゆき
平安時代前期の貴族・歌人・書家
秋来ぬと
目にはさやかに
見えねども
風の音にぞ
おどろかれぬる
秋が来たと
目にははっきりと
見えないけれども
風の音で
それと気付かされた
ふじわら の としゆき
白露の
色は一つを
いかにして
秋の木の葉を
千ぢに
染むらむ
白露の
色は白一色なのに
どのようにして
秋の木の葉を
色とりどりに
染めるのだろうか
おおしこうち の みつね
平安時代前期の歌人・官人
風吹けば
落つるもみぢ葉
水清み
散らぬ影さへ
底に見えつつ
風が吹くと
散り落ちた紅葉の葉は
池の水が清く澄んでいるので
まだ散っていない紅葉の影もて
水底に映って見えている
古今和歌集
古今和歌集*こきんわかしゅうとは、平安時代前期に日本の第 60代天皇 醍醐天皇*ごだいごてんのうの命により編纂*へんさん
/ 資料や作品を集めて整理し、一つの書物としてまとめること された、全20巻の勅撰和歌集*ちょくせんわかしゅう のこと。
「古今和歌集」に収められた秋の歌々は、紅葉、月、虫の音、野分など、物思いを誘う情景が豊かに描かれている。そうした情景を通して、深まる季節とともに募る哀愁や恋心が、しみじみと今に伝わってくる。
ふじわら の としゆき
平安時代前期の貴族・歌人・書家
秋来ぬと
目にはさやかに
見えねども
風の音にぞ
おどろかれぬる
秋が来たと
はっきりと目には
見えないけれども
風の音で
それと気付かされた
ありわら の むねはり
平安時代前期の貴族・歌人
秋の野の
草の袂*たもとか
花薄*はなすすき
穂に出てて
招く袖と
見ゆらむ
秋の野の
草の袂なのか
花ススキは
咲き出た穂が
恋しい人を招く袖のように
見えているのだろう
ありわら の むねはり
我のみや
あはれと思はむ
きりぎりす鳴く
夕影の大和撫子*やまとなでしこ
私だけが
美しいと思うのだろうか
コオロギが鳴く
夕方の日の光に映える撫子の花を
古典音楽
古典音楽には、静けさの中に温もりを宿した旋律と、郷愁を帯びた季節の気配を描いた作品が受け継がれている。
秋の曲(箏曲) / 宮城道雄
秋の言の葉(箏曲) / 宮城道雄
秋の曲 / 吉沢検校
嵯峨(さが)の秋(箏曲) / 菊末検校
秋の夜(江戸端唄)
秋の七草(江戸端唄)
など
クラシック音楽
秋の深まりとともに生まれる感慨を旋律に託したクラシック音楽は、時代を超えて心を静かに満たしてくれる。
協奏曲集「四季」協奏曲第3番ヘ長調「秋」/ アントニオ・ヴィヴァルディ
ピアノ曲集「四季」より「10月 秋の歌」/ ピョートル・チャイコフスキー
練習曲 作品25第 11番 イ短調「エチュード」/ フレデリック・フランソワ・ショパン
「ベルガマスク組曲」第3曲 「月の光」/ クロード・ドビュッシー
荒城の月 / 滝廉太郎
など
童謡・唱歌
童謡や唱歌に描かれた秋は、ふと口ずさむだけで、子どもの頃の眩しい情景をそっとよみがえらせてくれる。
もみじ
まっかな秋
夕焼け小焼け
赤とんぼ
とんぼのめがね
里の秋
虫のこえ
七つの子
証城寺のたぬきばやし
おおきなくりのきのしたで
十五夜お月さん
まつぼっくり
月
など
ポピュラー音楽
秋を題材にしたポピュラー音楽は、日々の暮らしに溶け込みながら、私たちの記憶や感情にそっと寄り添いながら、季節の変化を身近に感じさせてくれる。
三日月 / 絢香
木枯らしに抱かれて / 小泉今日子
蕾*つぼみ/ コブクロ
風立ちぬ / 松田聖子
茜色の約束 / いきものがかり
楓 / スピッツ
September / 竹内まりや
輝く月のように / Superfly
など
絵画
秋をテーマに描かれた絵画を通して、一瞬の美しさや移ろいゆく時間が、画家たちの筆によって静かにキャンバスへと刻まれてきた。
秋冬山水図 / 雪舟
秋、積みわら / ジャン=フランソワ・ミレー
花瓶の黄金の菊 / ピエール=オーギュスト・ルノワール
など
